着物の話

八朔

八月一日。
京都祇園では恒例の舞妓さん、芸妓さんの挨拶回りのニュースがありました。

現在、絽の黒紋付が拝見できる希少な場面かもしれません。
絽とはいえ重ねの紋付はさぞやお暑いでしょう・・・

八朔について→祇園商店街振興組合

寸法について思う事(和裁士としてのあり方)

先日お伺いしたあこや着物教室でも寸法のお話をさせて頂いたので、今日はちょっと着物の寸法について私が思う事をちょっと書いてみようと思います。

皆さまはご自身の着物の寸法はどこまでご存じでしょうか?
着物のマイサイズは和裁士や呉服屋さんが決めてくれるものだと思っていらっしゃるのではないでしょうか。
私が思うマイサイズとはお客様と和裁士(もしくは呉服屋さん)が一緒に考えていかないと出てこないものだと思っています。

最初に注文した時のサイズはもちろん自分が指定する寸法ではありませんが、それを元に自分に合っているかどうかを判断されるのは最終的にはお客様自身なのです。
というのも、”着心地”は着ている方にしか分からない事だからです。
いくら和裁士や呉服屋さんが「これがあなたのベストな寸法です!」と言っても、ベストかどうかを決められる(決めていい)のは着ている本人だけなのではないでしょうか。
例えば、私からみると『かなり大きいサイズの着物を着ているな。』と思ってもそれが着心地が良いというお客様もいらっしゃるのです。
何を持って着心地が良いというかは、お客様に依る所が大きいのです。

「自分に最適な寸法を出すのに10年かかりました。」
という方もいらっしゃいましたが、実際にはそれくらいかかる事なのかもしれません。
何故なら、今まで洋服しか着てこなかった方がお着物の着用感を最初から分かるはずないのです。

とは言っても、あまりにも見当違いな採寸の仕方はどうかと思っています。
『最初からベスト』をお客様は望むのかもしれませんが、自分の好みの着方や癖などが分かって初めてマイサイズにたどり着けるものなのです。
もし近道があるのだとしたら、沢山お着物をお召しになることです。
10年とは言わなくても、少しでも早くそこへたどり着けるお手伝いをするのが和裁士の役目だと思います。

そこで私(和裁士)としては何が出来るのかを考えた時に、お客様のご相談にいつでものるという事だと思っています。
些細な事でも気軽に言っていただける関係を持てたら良いなと思います。
お客様との関係は常に対等でありたいと思っています。どちらかが上でどちらかが下という関係では上手くいきません。
その信頼関係を保つ努力も惜しみません。
何年たっても共にパートナーであり続けるという事が、私の考える和裁士の理想像です。

着物文化論

最近読んだ記事で思わず納得してしまったものをご紹介。

英国人の日本文化論が「正しすぎる。」「ぐぅの音も出ない。」と話題に

きものを「貴族の文化」にしたのは何か

着物にはお金がかかる、高い着物を売りつけられそう、というイメージがどうしても拭えない着物業界。
もちろん洋服よりもお金はかかります。
ここで言うお金がかかるというのはメンテナンスの話です。
今はネットで安い丸洗いなども出ておりますが、それでも1着3~4000円はかかります。
それに、シミを付ければしみ抜き代、カビなんかが生えてしまったらそれこそ数万円~数十万円が飛んでしまう事もあります。
着物を着るという事は、『まめに手入れをする』という事が欠かせません。
洋服の様に家で簡単にお洗濯が出来る物でもありませんし、お手入れができない方には向いていない衣服なのです。

着物の金額については様々なご意見があると思いますが、高いか、安いかが分からないうちに高額な着物を購入しないという事が一番だと思います。
商品には適正価格というものがあります。
それが分からないうちは、周りの雰囲気にのまれて購入しないという事が鉄則です。
ですが、自分を厳しく律していても一度や二度の失敗はついてくるものです(苦笑)

私の所にいらっしゃるお客様は個々に楽しみ方が違い、それぞれのスタイルを持っていらっしゃいます。
何を着ているかではなく、自分のポリシーを持って着物をお召しになる方が素敵だと思っています。
何より、楽しんで着るという事が自分を輝かせ素敵に見せるのではないのでしょうか。
決して自分が正しいと思う着物像が正解ではないので、ほかの方にそれをあてはめない事です。
楽しみ方は人それぞれです、自分と趣味思考が違っても非難するなんて事はしないでほしいと思います。
ですが、TPOをわきまえる事は重要です。
お洋服でも結婚披露宴にGパンTシャツでは出席しないのと同じ様に考えてください。
着物は『正装』だけではありません。着物にもGパンTシャツと同じく普段着はあるのです。
そして自分が楽しめる環境と、共有できる友人がいると更に楽しくなるはずです。

着物は洗張をして着物い仕立て直す事も出来ますし、裏を表にしてお仕立直し出来る生地もあります。
着物からコートや羽織にも形を変えられます。
その後も、帯になり座布団になりとどんどん小さくなって最後は雑巾になるまで使えるのです。
着物のまま次の代に手渡すことももちろん然り。
高い買い物になるかならないかは、その方の扱い方次第なのかもしれません。
買ったのに着ないという事が一番もったいないと思うのです。
裾が擦り切れる位どんどん出かけて楽しむことで、元を取ったらよいのではないでしょうか。

本日のお客様 (琉球紬のお渡しと色止め加工について)

月イチいらして下さる世田谷区Hさま。
1月はお休みさせていただいたので、本日が今年初になります。

お渡しした琉球紬は藍染のお着物でしたが、お仕立て前に少々色落ちがしましたので先に色止め加工に出しました。
藍染めは特に色移りが気になるところですが、決して100%止まるものではありません。
とはいえ、藍染には淡いお色の帯がとても良く似合うので何とも悩ましい所です。
藍染でなく、本場大島紬の証紙にも色移りの記載があります。

そういうお着物をお召しになる場合は、「ちょっとくらい色が落ちてもいいかな。」というお気持ちでいた方が楽なのではないでしょうか。
ですが、どうしても色が移って困る帯などは避けた方が良いです。

逆にお客様の中には色がうつっても、色止めやガード加工は絶対にしないという方もおられます。
そこは人それぞれの楽しみ方。どちらが良いという事ではありません。
ご自身の中でどうお召しになりたいのか、どう楽しみたいのかで変わってくるものです。

本日のお客様 (単衣小紋のお渡し)

お仕事帰りにいらしてくださいましたF様。お忙しい所ありがとうございます。
お仕立した単衣の小紋は今月のお茶のお稽古でお召しになるそうです。

10月頃でもまだ汗ばむような年もあれば、今年の様に思いもかけず涼しい残暑の年も。
衣替えの頃は特に何を着るものか悩んでしまいますが、何事にも”柔軟さ”が大切。
洋服と同じように、その日の気温やお天気と相談してください。

割と過ごしやすい日が続いているこの頃、薄物のお着物だとさすがに”季節外れの蝉”の様に感じてしまいます。
近年では珍しく、暑さを我慢せずに単衣をお召しになれる9月です。

本日のお客様 (七歳祝着 お直し)

杉並区からお越しのY様。お嬢様と一緒にいらしてくださいました。
凄い偶然で、Y様のご主人のご実家が拙宅の前のマンションだそうで本当にびっくりされておりました。

さて、お着物の方はお母様が中学生の頃にお召しになったお着物を七歳用にお直ししたいといご依頼です。
お仕立て直しも検討したのですが、袖丈を少し短くするのと、身幅を狭くするという事で大丈夫そうです。
お母様がお召しになったお着物をお嬢様がお召しになるのは、振袖だけではなく子供物でも同じく素晴らしい事です。
次の代に受け継ぐ為には、お召しになったあとのアフターケアーも大事です。
洗張りまでしなくても、生洗いは必ずしてください。
生洗いは大きいクリーニング店なら受け付けています。
着物をお召しになると少なからず汗をかくものです。お子さんは特に汗をかきます。
七五三など、その後何年もお召しにならないお着物は、そのままタンスにしまってしまうと何年か後に汗シミが滲み出てきます。
子供物は肩揚げ、腰揚げも外しておく方がベターです。
後々悲しい思いをしないためにも、しっかりとケアしてあげてください。

本日のお客様 (附下のお仕立てと長襦袢のお直し)

横浜市からお嬢様とご一緒にいらしていただきましたH様。
お嬢様が学生時代に世田谷区(この近所)の高校に通っていらしたそうです。
少しでも馴染みがある場所ですと、来やすいかもしれないですね。

本日はお嬢様用の附下をご依頼いただきました。
附下も礼装としてお召しになれますが、第一礼装ではありません。
ミセスの場合、結婚式の参列にはお召しになれますが、お身内の方のお式ですと色留袖もしくは黒留袖となります。
附下や訪問着は親族でない方の結婚式にお召しになった方がよいでしょう。

お持ちいただきたお着物はピンク色のぼかしの中に花々があしらわれた文様。
お花の文様よりもぼかしの柄合わせがメインになっていますので、身幅もそれほど変わることなくお仕立てできると思います。
八掛も共濃いのお色にご決定。
長襦袢の寸法直しと合わせてご依頼いただきました。
出来上りを楽しみにお待ちください。

本日のお客様 (お着物お渡し)

日野市のA様。
仕立て上がった小紋と長襦袢をお渡ししました。
小紋は花びらが舞ったような柄で、どちらかというと小紋という感じはなく色無地の様な落ち着いた雰囲気。
『気軽な結婚式なので小紋で参加します。』
と、おっしゃっていたのですがとてもシックなお着物になりました。
帯合わせで楽しくも豪華にもなると思います。

なぜ小紋が結婚式にNGなのかというと、下向きの柄があるからだと言います。
訪問着や附下の柄は柄は全部上向き、もしくは吉祥文様です。
色無地や江戸小紋に紋を入れると準礼装でお召しになれるというのはこういう理由なのです。

本日のお客様

藤沢市のY様。
白大島を単衣の羽織に仕立て直しをさせていただきました。
他の仕立屋さんでは、羽織にしない方が良い、という様な事を言われたそうですが、その真意は分かりません。
お着物だった白大島は洗張りがされ、もちろん着用していた際に付いた汚れはありましたが、シミは必ず付くものだと思います。
そのやりくりが大変だったのか、ほかの理由があったのかは分かりませんがお客様ご自身が納得していただいているのであれば問題はないと思われます。
Y様は出来上がった羽織を見てとても喜んで下さいました。

そして、もう1枚洗張済の無地染めの反物をお預かりいたしました。
身長168センチのY様は「着物は無理だと思います。」とおっしゃっておりましたが、やりくりをして大きくなることが分かりましたので、お着物に仕立てることに決定。
身丈たっぷりとはいきませんが、腰紐でおはしょりを調節していただければ着用に問題はないと思います。
単衣にするか袷にするかだけ少し考えますという事になりました。

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午後から世田谷区のU様が長襦袢を引き取りにいらっしゃいました。
今回、初めての長襦袢のお仕立てでしたので実際に羽織っていただく。
長襦袢は対丈でお召しになるので、同じ身長でも羽織った時の長さが違う物。
少し短めでしたので、5分(約2センチ)身丈を長くすることに。
引き取りにいらして頂いて申し訳ないですが、お直ししてからのお渡しという事になりました。

U様からも紬のお仕立て直しを1枚お預かりさせていただく。
いつもありがとうございます。

本日のお客様

世田谷区にお住いのO様。
宮古上布のお仕立て直しをご希望との事でいらして下さいました。
『宮古上布は熟練した職人さんでないと仕立てられないよ。』
と言われていたそうで、私の所にいらして下さったのをうれしく思います。
仕立屋さんの中では嫌がる人もいらっしゃるようです。

お持ちの宮古上布を、宮古島で砧打ちをし直したという生地。
新しく生まれ変わったというのにふさわしく宮古上布独特の光沢感を放っていました。
この砧打ちで生まれる光沢感ですが、これはお好みに合わせて仕上げてくれるそうです。
言葉は悪いですが、ピカピカにしたければその様に、程よく抑えたければ控えめにしてくれるという事です。

蝉の羽と言われるほどの薄さと輝きを生かして夏の暑い日々を少しでも快適に過ごしてほしいと思います。